標高3000m級の山がひしめく南アルプス。
2020年の今年は新型コロナの影響で、登山口である広河原や椹島へのバスが運休となり、半ば閉ざされた山域となってしまった地。
去年までは考えても見なかった状況になり、近いと思っていた南アルプスが急に遠く感じる存在になってしまいました。
南アルプスについて、ただ思いを馳せるだけの回。
山登りを親しむ過程で、誰しも一度は憧れを抱くであろう山域、日本アルプス。
僕自身もそう。都内に住んでいることもあって、最初は奥多摩や丹沢。山を知るうちにより高いところを目指すようになり、本屋に行っては山雑誌を片手にアルプスの3000m級の山々を眺めていたりしたもんです。
北アルプス、中央アルプス、南アルプス。
最初はこの3つの違いなんてよく分からなかったですが、何度も登っているうちにそれぞれの個性というか、自分の中で別々の印象を抱くようにもなってきました。
特に北アルプスと南アルプスの対比は登山界でも話題になるネタで、「どっちが好きか」っていうのは、きのこたけのこ戦争のようなもので。
アルプスに何度も足を運ぶ過程で、自分なりに得た印象としては
「北アルプス=華やか」
「南アルプス=渋い」
というイメージ。これだけ見ると北アルプス推しのように感じますが、実際のところは確かに最初の頃は北アルプスにばっかり魅了されていた時期がありました。
南アルプスってなんか玄人向けというか、ロープウェイとかないし、登山口までのアクセスも面倒だし、いざ登り始めてみたら急登ばっかり、森林限界だって高いし、山小屋も何だか一癖ありそう、などなど。
自分の場合、登山中で最も楽しい瞬間というのは展望の開けた稜線をのんびり歩いている時なので、そこにいきつくまでのハードルで言ったらやっぱり南アルプスは難易度高かったです。
本当に序盤の樹林帯がキツイのなんのって……
それでも南アルプスの山行を改めて振り返ってみると、どれも鮮明に覚えています。
1泊2日の強行で歩き通した赤石岳~悪沢岳縦走とか、正月に登った冬の仙丈ヶ岳とか、テントの重さに泣きそうになった聖岳~光岳とか。
個々の山が単体で大きいので、1つの山を登るだけでもかなり大変。縦走と言いつつも登り返しがえぐいもんで、単発の登山を2セット行っているような感覚に陥ったこともありました。
登山口までの林道も脆く、登山口に行きつくまでが核心部と言われていたりもする南アルプス。
だからこそ、無事に縦走を終えた時の達成感は北アルプスのそれを超えてる気がします。自分の中ではの話ですが。
どっぷり山の世界に浸るために静かな環境に身を置きたいなんて時は、むしろ南アルプスに惹かれていたこともあります。
2020年の今年は新型コロナの影響で、山小屋の営業が危うい状況というのすでに周知されていることですが、こと南アルプスに関しては今シーズンいっぱい営業休止を決定した山小屋がほとんどです。
おそらく小屋泊を利用して登れる山といったら甲斐駒ヶ岳(七丈小屋)と鳳凰三山(薬師岳小屋、南御室小屋)くらいじゃないかな。
特に椹島発着のバスが運休になったことで、南アルプス南部は壊滅的。今シーズンは閉ざされた山域となってしまいました。
東京都内に住んでいるからか、距離的には北アルプスよりも南アルプスの方が近いので、行こうと思えばいつでも行けると思っていた南アルプス。
それがこんな形で、いつの間にか手の届かない状況になってしまったわけで……
こうなってみて初めて気づくのが、ただ休みと天気のタイミングだけを考えて山計画を立てれた頃が幸せだったなぁと。
去年の夏、ちょうど1年くらい前に私は1泊2日で北岳~間ノ岳~農鳥岳の縦走登山をしました。
農鳥岳に登ったことで日本にある3000m峰の山をすべて一巡できたので、自分としては1つの区切りをつけられた山登りだったわけですが、特に2019年のうちに完遂したいという強い思いがあったわけではありません。
何となく南アルプスの天気が良くて、まだ未踏の農鳥岳に行きたくなったから、というだけの話。
今にして思うと、心の底から行っておいて良かったなと思います。よく「山は逃げない」なんていう言葉を聞きますが、個人的な意見としては「山は逃げる」ものだと思ってます。
特に、数ヶ月前の記事で公共交通機関で行ける登山が減ってきているというようなことを書きましたが、山に行く手段が今後さらに減っていくかもしれないし、御嶽山や浅間山のように、火山では噴火レベルによって立ち入り禁止になる場合も往々にしてあります。冬の少雪傾向が加速して、巨大樹氷・スノーモンスターが幻の産物になってしまう日が来るかもしれない。
何より、今この瞬間、例えば若くて体力があるうちだったら日帰りで歩けるコースが、年を重ねるごとに現実的でなくなり歩けなくなってしまう、そういうことだってあります。というか、すでに自分の中ではそういうコースがいくつかあります。
自分の体力、メンタルの問題ではありますが、これもある意味では「山が逃げる」と意味合いは同じ。歩けるはずだったコースが歩けなくなった。
山は登れるうちに登っておいた方がいい、という気持ちは前々からなくはなかったですが、こういうご時世になってより一層強くなってきた気がします。
今年の梅雨は長く、7月に入ってからもなかなか山に繰り出すチャンスがないのが現状ですが、行けるときに行っておいた方がいいと思うようになり、何となくこんな記事を書くに至りました。
特に中身のない、ただ南アルプスに思いを馳せる回でしたとさ。
おしまい。